職業性呼吸器疾患
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じん肺肺がん研究について

 厚生労働大臣が、独立行政法人労働者健康福祉機構に対し、12の労災疾病についてモデル医療やモデル予防法の研究・開発を行い、その成果を普及するように中期目標を定めました。その目標の一環として、岩見沢労災病院に置かれた職業性呼吸器疾患研究センターを中心に旭、富山、神戸、岡山の5つの労災病院が中核となり、さらに近畿中央胸部疾患センターなどの協力を得て平成16年から「じん肺に合併した肺がんのモデル診断法の研究・開発・普及」の研究事業がスタートしました。その主な研究計画の内容について概説します。

課題 1.現行のじん肺合併肺がん診断法の有効性の研究

 平成15年4月に原発性肺がんがじん肺の合併症として取り扱われる旨、じん肺法施行規則の改正があり、じん肺検診有所見者のうち医師が必要と認めた者に対して、年1回のヘリカルCTと喀痰細胞診が行われることになりました。
 課題1はこの2つの検査法の導入がじん肺合併肺がんの早期発見に役立っているかどうかを検証しようとする研究です。

課題 2.各種粉じん作業別じん肺の典型例集の作成

 じん肺肺がんの画像診断の前段階としてじん肺そのものの正確な診断が必要で す。現在わが国で考えられる主要な粉じん職場・業種は炭坑、金属鉱山、ずい道工事、窯業、石綿取り扱い作業、溶接、歯科技工、い草取り扱い作業等であり、各業種別の典型的な画像を収集して普及させることが、専門的にじん肺を診療・研究してきた当機構に課せられたテーマと考えられます。今回の研究では、5つの労災病院を中心として各業種別の典型的なじん肺例のCR、CT等の画像をまとめるだけでなく、肺がん等の合併例の画像や実際の作業状況を示す写真や関連する法規等も含めた資料集を作成し、情報を提供しようとするものです。

課題 3.石綿曝露による肺がんおよび悪性胸膜中皮腫例の調査研究

 石綿作業従事者に生ずる悪性中皮腫や肺がんは、欧米では労務災害としての疾患概念が確立しています。しかし、わが国では大量の石綿を使用してきた経緯があるにも拘わらず労災補償の対象となった症例は数パーセントに止まっています。ごく最近、我が国でも石綿による肺がんや悪性中皮腫の多発が報道されました。今後も石綿に起因する肺がんや中皮腫の増加が予測されている事から、全国的な規模で石綿曝露による疾病の広がりを調査研究します。特に全国の労災病院でこれまで診断した胸膜中皮腫の症例を、平成17年度中に再調査して中間報告する予定です。

課題 4.新たな肺がん診断法に関する研究

 この研究では、従来の検査法よりさらに効率的な、あるいは次世代のじん肺肺 がんの検査手法の開拓を目指すものです。

4−1:画像診断法

a)CRによる経時サブトラクション法およびエネルギーサブトラクション法の有用性の検討
 前回(またはそれまで)のCR画像と比較して今回の画像に新たに出現した陰影をコンピューターサブトラクションによって絞り込むことにより、容易に診断できるようにする試み(経時サブトラクション法)、およびCR画像の上で骨陰影を消去し、気道と肺実質を直接読影し易くする試み(エネルギーサブトラクション法)です。

b)PETの有効性に関する研究
 目下話題のPETが、両肺に多発しているじん肺陰影を背景としたなかで新たに出現した肺がんの同定に有力であるか否かを、北大医学部核医学診断科の協力のもとで研究するものです。

4−2:遺伝子診断法:血清遊離DNAにおける癌抑制遺伝子過剰メチル化の検討
 血清癌抑制遺伝子のメチル化が、肺がん発生の早期から発現しその測定が肺がんの早期発見のための有用な手段となることが報告されています。じん肺では、肺の高度な線維化や気腫化、炎症性変化によって肺が広範に障害を受けています。その様な背景のもとで血清癌抑制遺伝子のメチル化が一般の肺がんと同様に早期診断に有用かどうかを含めて研究します。本検査法は確定診断が困難な肺がんの疑われるじん肺症例に対し、手術による積極的な治療選択に役立つ事が期待されます。

課題 5.シリカのヒト気管支上皮細胞の変異原性に関する研究

 シリカの発がん性は疫学的には国際的に認められているものの(IARC)、ヒトにおいては直接証明されておらず、研究者の間では未だに議論が続いているのが実情です。本研究では市販されているヒトの気管支上皮細胞系を用いて、直接この点を明らかにしようとする初めての試みです。細胞・組織レベルでのがん発生が確認された場合は、じん肺と肺がんに関する研究の大きな前進であり、課題4−2(遺伝子診断法)とも直接関連して細胞生物学的見地から肺がんの早期診断や治療への新たな道が開かれる可能性も期待されます。


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