両立支援:がん
研究の目的
そこで本研究では、実態調査としてのアンケート調査を産業医、主治医、企業、患者を対象に行い、多くの勤労者が離職する理由とその解決を検討することを目的とした。
方法と対象
【産業医アンケート】
全国8カ所の産業保健推進センターにおいて自記式アンケートを実施し、73名から回答を得た(回答率73%)。
【主治医アンケート】
全国の労災病院30施設において自記式アンケートを実施し、221名から回答を得た(回答率70%)。
【企業アンケート】
北海道および関東近郊の企業を中心に自記式アンケートを実施し、219企業から回答を得た(回答率16%)。
【患者アンケート】
主に労災病院を拠点とし、乳がん298名、大腸がん172名、肝がん92名の計562名に対し、調査員による聞き取り調査とQOL項目を主とした自記式アンケートを実施した。そのうち、乳がん50名、大腸がん37名、肝がん13名は経過を追って半年後、1年後に同様の調査を行った。
産業医、主治医に対するがん罹患勤労者に関するアンケート調査
全国の労災病院の主治医に対するアンケートからは、患者との就労に関する相談は約80%の医師が経験していた。労災病院勤務医にとって、患者の就労の問題は身近な話題であることがわかった。
しかし、がん罹患勤労者に関して、産業医から主治医への相談は37%、主治医から産業医は4.7%と両者の情報共有は乏しいことが明らかとなった。
企業への「がん罹患勤労者の就労支援」に関するアンケート調査
企業においては、がんに対して上司や同僚など周囲の理解を深める活動がほとんど行われておらず、重要な雇用体制の提示や復帰に向けた取り組みを行っている企業は少ないことが明らかとなった。
産業医と主治医の連携も従業員から復帰を求める事例がないことや支援の考えがないという回答が多く、相談窓口の設置など企業内での職場復帰支援体制が整っていない現状が明らかとなった。
がんなどの私傷病に関しては会社の福利厚生の度合いによって大きな差があった。衛生委員会の取り組みも含め、「がん」についての正しい理解の普及が求められる。
乳がん、大腸がん、肝がん罹患勤労者へのアンケート調査
【対象者】- 過去5年以内に70歳以下でがんと診断
- 主たる治療を終えて
乳がんは2週間~5年以内
大腸がん、肝がんは6か月~5年以内
②医師による医学的背景調査票の記入
③QOL項目を主とした自記式アンケート調査