振動障害
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振動障害の診断と治療
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山陰労災病院における診断基準と振動障害認定
治療と予防
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治療と予防

1 治療

 旧労働省基発第585号には、効果があるとされている理学療法、運動療法、温泉療法、薬物療法などがあげられています。 現実には、患者の症状、その変化に応じてこれらの治療法を組み合わせて行うことになります。後で述べる作業改善によってもレイノー現象がたびたび出現する場合、薬物療法が寒冷期には必要となることがあります。
 建前論としての山陰労災病院での処方例は下記のとおりです。
1)末梢神経障害の治療
 アダラートカプセル(10mg) 2カプセル分2 (立ちくらみや頭痛などの副作用がみられる。)他にエパデールカプセル(300mg) 3錠 分3 またはオパルモン錠(5μg) 6錠 分3も併用する場合があります。
 重症例では次のような薬物も試みられます。
 プロスタグランジン注(20μg)2-3アンプルを500mlの輸液に溶解して2時間かけて点滴静注します。
2)末梢神経障害の治療
 メチコバール錠(500μg) 3錠  分3
3)骨関節障害の治療
 整形外科的治療が必要となる例があります。一般的には対症療法が必要に応じて行われることになります。
 振動障害に対する治療として症状ごとに考える必要があります。末梢循環障害では、レイノー現象が出現する寒冷期にはカルシューム拮抗剤を中心とした薬物投与が考えられます。国有林では振動障害患者は振動曝露を離れ、林道保守作業、下刈り作業に従事しております。一方、労災患者は休業加療を受けております。両群の比較では国有林患者の末梢循環機能の改善がよりよかったです。このことは、末梢循環機能改善には肉体労働の継続効果が大きいことを示唆している戸考えられます。肉体労働継続が心肺機能の維持・亢進のみならず筋肉の収縮のポンプ作用および交感神経機能亢進に対して、良好な影響を及ぼしていると考えています。また、医学的に振動障害の場合一般的な労働ができなくなるような例はほとんどありません。末梢神経障害では、予後の項で記述するように変化がないこと、また効果的な治療法はないのが実情であります。
 入院治療は寒冷曝露を避ける意味もある。濃密な入院治療を行っても退院後3ヶ月を経過すれば元の状態に戻っている例が大部分でありました。
 日本より気象条件の厳しいスウェーデン、フィンランドの治療状況を見聞しました。レイノー現象の出現をもって労働能力が著しく障害または低下するとは考えていなかったです。したがって、本人が希望すれば元の職業を継続しているとのことでした。スウェーデンでは寒冷期に限定的に短期間のカルシューム拮抗剤を投与する程度であるとの話でありました。フィンランドでは関節痛に対する消炎鎮痛剤の投与のみが行われているとの話でありました。日本との大きな違いは補償体系の違いに由来すると思われました。

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2 予防

 振動工具使用者が、振動障害に罹患しないようにすることは、作業管理、衛生管理、健康管理、衛生教育を合理的に行ない、労使一体の協力に基づいて初めて実現可能なことです。

(1)振動障害の予防のための作業管理

 振動工具使用者が振動障害に罹患しないようにするためには、第一に、振動曝露を無くすか軽減することであります。そのためには、振動工具を使用しない他の作業方法に置き換えるか、振動作業を自動化できれば、それが一番よい方法と考えられます。それらが困難であるときには、できるだけ低振動レベルかつ軽量の工具の使用を計り、振動曝露の軽減を計ります。また実際の作業面での不適切な作業姿勢の改善、適切な高さの作業台への変更、作業時間制限、作業のローテーションなどの作業面から振動曝露を軽減する方法があります。これらのことを一括して作業管理といっています。この作業時間規制については労働省の通達で定められており遵守する必要があります。ここでは有害作業における有害因子への曝露を減らすための一般的な作業時間管理について説明します。
   (1)計画的に振動工具を使用しない労働日を設定する。
   (2)一日の振動作業の最長作業時間の設定
   (3)振動作業の最長一連続時間の設定
 これらのことを実行するには、個々の振動業務が一連の作業の中で自然に作業管理基準を満足するような流れになるように、作業手順が組立てられる必要があります。そのためには、労働者のローテーションを行なう方法や、振動作業と他の作業とを組合せる方法があります。しかし、これらが適切に実行されているか否かのチェックシステムを確立しておくことを忘れてはいけません。
 忘れてはいけないことは、振動工具の保守・点検であります。振動工具のメンテナンスが悪いと、その工具が発生する振動レベルは高くなるのみならず作業時間が長くなり、結果として振動曝露量は多くなります。例えば、簡単な例として、チェンソーの目立てが悪い時や、チッピングハンマーの鏨の刃先が鈍になると、破砕力が弱くなり振動レベルは高くなり作業時間は延長します。
 保護具として軟質の厚い防振手袋の着用も勧められます。この他に、防振とは関係ないですが、振動工具は騒音を発生しますので、90ホン(90dB(A))以上の騒音を伴なう作業では、必ず耳栓や耳覆いを着用する習慣をつけることが必要です。
図24
図24 振動・騒音刺激が皮膚温に及ぼす影響
 上図は3分間右手に100Hzの振動刺激を負荷し、左手背の皮膚温変化を一番上のカーブで示し、中ほどのカーブは録音したチェンソーの騒音を3分間、両耳に90dBの音圧で負荷した時の左手背の皮膚温変化を、一番下のカーブは上述の振動と騒音刺激を同時に負荷した時の左手背の皮膚温変化を示したものです。
 この実験で得られた情報では50、70、90dBの3種類の音圧では、90dBの音圧のみで皮膚温変化を観察することができています。したがって、騒音性難聴の予防の観点のみならず、振動障害の予防の観点においても騒音に対する保護具を使用する大切さが理解できます。

(2)衛生教育

 衛生教育では振動障害の正しい理解、その予防法、工具の正しい操作法などの知識を労働者のみならず使用者側の方々にも持っていただき、振動障害の発生予防に企業として、また個人として積極的に関与していただくことも重要です。

(3)衛生管理

 定期健康診断の必要性は言うまでもありませんが、それ以上に重要なことは、健康診断の事後措置が適切に行われているか否かであります。健康管理にあたる産業医・嘱託産業医との連携が大切です。各県にある産業保健推進センターに相談する方法もあります。

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3 作業環境

 振動障害の症状の出現には気象条件、特にその中でも気温、風などの影響があることはよく知られていますが、振動業務を行なう作業場などについても、そうした観点からの 配慮が必要です。屋外作業の場合には、有効に利用できる休憩設備を設置し、かつ暖房設備を整えておくことが必要です。屋内作業では気温が18℃以下にならないようにするなどの配慮が必要ですが、それが不可能な時には屋外作業の場合と同様に暖房設備の整った休憩設備を設置する必要があります。

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4 職場体操

 筋肉の疲労をとり、身体の健康を維持するための体操を行なうことは、振動障害の予防にも効果的であると言われています。作業開始前、作業の間の適当な時、作業終了時に、首、肩、肘、手首、指の運動、さらに腰の屈伸、回転を中心とした体操を行うとよいでしょう。問題はこれらの体操を毎日継続して行なうことと、体操する時には各関節の動く範囲を最大にするように気を入れて行うことです。このような体操は単調なため継続して実行することはかなり難しいため、職場で集団として行うことが継続性を高めることになるでしょう。

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5 日常生活上の注意

 日常生活における普段の注意の積み重ねによって健康を維持することが基本となりますが、具体的には次のような点に注意する必要があります。

1)防寒、保温

 振動障害の症状は体が冷えることによって出現しやすくなります。従って、寒さを防ぐことと体を暖めることが大切になります。そのためには、冬の暖房はもちろんですが、適当な衣服等によって体温の調節をはかる必要があります。寒い戸外でのレクリエーションや夏の海水浴等では身体の冷えに気をつけます。衣類について詳しく説明しますと、作業中には汗がでます。木綿製の下着では汗が下着に吸収されて、その結果、下着の空気の含有量が減り、体が冷えることになります。作業中の下着は汗が出ても体が冷えない化学繊維製の下着を着るように注意すべきです。その意味において手袋はスキーの時に使用する純毛製の手袋の着用が理想的です。
 入浴は血行をよくし疲れをとり、精神的にもリラックスしますので、少しぬるめの風呂に長くつかることを薦めます。
 通勤のオートバイ等は、身体の冷えばかりでなくハンドルの振動もありますので、単車の使用は中止されることを勧めます。

2)家庭での振動作業

 最近では家庭でも、日曜大工や庭の手入れ等に振動工具を使うことが多くなりましたが、そういった場合にも、なるべく振動工具を使わないようにする等の注意をする必要があります。

3)栄養と睡眠

 特別に振動障害予防のための栄養というものがあるわけではありませんが、栄養としてはその量と質のバランスがとれていることが必要です。また、十分な睡眠も身体の疲れをとって、翌日元気に働くことができる身体をつくるうえで大切なことであることはいうまでもありません。

4)体操

 振動障害の予防には、体操は特に効果があります。現在、振動障害予防のための体操としては、林業で行われているチェーンソー体操というものがありますが、特にこれでなくてはならないということはなく、一般的な体操で全身の筋肉の緊張をほぐし、血液の流れをよくし、手、腕、肩、頸、腰、足等の関節の動きをなめらかにするような体操を選び、根気よく続けることが大切です。できれば、レクリエーション活動としての体を動かすスポーツ活動を継続して実行されることを薦めます。

5)タバコ

 喫煙は、ニコチンが肺から血液中に吸収され、体の血管を収縮させ、振動障害が起こりやすくなりますので、振動業務に従事する人にとってタバコはよいものではありません。禁煙することが必要です。

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