物理的因子
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研究課題[3]
―職業性皮膚障害の実態・発生機序ならびにその予防に関する研究の追跡調査―

収集された症例についての概観

 今回報告された職業性皮膚障害の症例総数は390例でした。
 今回の調査結果は、労災病院のみを受診した症例が対象であることや、各医師により職業性皮膚障害の判断の基準が一定しておらず、施設別の症例数に偏りがあることなどから、一般的な職業性皮膚障害の実態を代表しているとは言い難いことを、始めにおことわりしておきます。

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男女別・年齢層別症例数

職業性皮膚障害は20歳代〜30歳代前半に多い
 報告された職業性皮膚障害の症例は、男性196例、女性194例で、男女比はほぼ1:1でした。報告された症例の平均年齢は39.9±15.9歳で、年齢層別にみると、20歳代から30歳代前半の若年層に多くみられます(図1)。50歳代後半でも若干多く2峰性を示しますが、これは、この世代の人口が多く就業者数が多いことによると考えられます。

図1
図1 職業性皮膚障害(390例)の男女別・年齢層別症例数

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職業別症例数

職業性皮膚障害はあらゆる職業に発生する
 報告された職業性皮膚障害の産業3部門別の症例数をみると、第1産業が36例(9.2%)、第2次産業が100例(25.6%)、第3次産業が254例(65.1%)であり、第3次産業の占める割合が高くなっていますが(図2)、これは、ほぼ就業者数の割合を反映していると考えられます。職業性皮膚障害はあらゆる職業に発生し得ると言えます。

図2
図2 職業性皮膚障害(390例)の産業3部門別症例数

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種別症例数

職業性皮膚障害の中で最も多いのは、接触皮膚炎・湿疹群
 報告された職業性皮膚障害の種別症例数についてみると、災害的皮膚障害75例では、外傷12例(16.0%)、熱傷63例(84.0%)を数え、職業性皮膚疾患では327例では、接触皮膚炎・湿疹群259例(79.2%)、皮膚真菌症25例(7.6%)、細菌・ウイルス感染症16例(4.9%)、動物性皮膚疾患10例(3.1%)、皮膚附属器障害6例(1.8%)、外傷性表皮嚢腫・角化腫5例(1.5%)の順となります。中には、複数の職業性皮膚障害を有する例があります。
 前回と今回の調査結果を表と図3にお示しします。職業性皮膚障害の原因・症状は多種多様ですが、この結果からも明らかなように、接触皮膚炎・湿疹群が職業性皮膚障害の多くを占めます。

表 職業性皮膚障害の種別症例数
表
(注)職業性皮膚障害の若干の症例には複数種の職業性皮膚障害を認める例があり、そのため各疾患症例数の合計と職業性皮膚障害症例総数とは合致しない。
図3
図3 職業性皮膚障害の種別割合 前回1)と今回の調査結果を対比して示す。

<参考文献>
1)荒尾龍喜,他:日本災害医学会会誌 46:343-352,1998

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災害的職業性皮膚障害(外傷・熱傷)

災害的職業性皮膚障害の内訳・男女比

職業性皮膚外傷・熱傷は、男性に多い
 災害的職業性皮膚障害75例の内訳は、熱傷が63例(84.0%)、外傷が13例(17.3%)で、うち1例は外傷と熱傷の両者を認めました。前回の調査1)では、外傷が71.3%、熱傷が28.7%であり、この割合と大きく異なっています。これは、今回主に皮膚科を受診した症例が調査対象であり、外科などを受診することが多い外傷は数に入っていないことによると考えられます。よって、実際には外傷の占める割合はもっと多いことが推測されます。
 75例の平均年齢は38.5±15.4歳で、男性48例(64.0%)、女性27例(36.0%)でした(図1)。職業性皮膚障害としての外傷・熱傷は、前回の調査と同様に男性に多いと言えます。
表1
図1 職業性皮膚外傷・熱傷(75例)の男女比

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職業性皮膚外傷・熱傷の種別

 職業性皮膚外傷・熱傷の種別を表1、表2にお示しします。
 外傷は、カッター等による切傷や打撲による裂傷・挫傷などがあり、特殊例として農業におけるマムシ咬傷が1例ありました。
 熱傷63例の中には、化学熱傷6例、電撃傷3例、凍傷1例を含みます。化学熱傷は、急性刺激性接触皮膚炎の極型と言えるものですが2)、その原因物質は、洗剤、有機溶剤などでした(表3)。電撃傷はいずれも製造業における発生、凍傷は建設業において液体CPガスが原因となった症例でした。
表2 職業性熱傷(63例)の種別
表3
表1 職業性皮膚外傷(13例)の種別
表2
表3 化学熱傷(6例)の原因物質
表3

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職業性皮膚外傷・熱傷の受傷部位

 職業性皮膚外傷・熱傷75例の受傷部位をみると、やはり外傷・熱傷ともに手が最多です(図2)。以下、上肢、顔、下肢がこれに次ぎます。
図2
図2 職業性皮膚外傷・熱傷(75例)の受傷部位

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職業性皮膚外傷・熱傷の職業別症例数

職業性皮膚外傷・熱傷は、第2次産業(特に製造業)に多い
 職業との関連について検討すると、職業性皮膚外傷・熱傷が最も多いのは製造業で(図3)、総数75例中40例(53.3%)を占めました。次いで、調理・炊事・皿洗い業が14例、飲食店業・ウェイトレスが9例でしたが、外傷がそれぞれ1例のみで、ほとんどが熱傷でした。建設業では外傷が多い傾向にありました。
 前回の調査1)でも、製造業で職業性皮膚外傷・熱傷が最も多く、建設業がこれに次ぐという結果が出ています。図4からも明らかなように、職業性皮膚外傷・熱傷は第2次産業に多いことが言えます。前回と今回の調査結果を比較すると、今回は第3次産業の占める割合が増加していますが(図4)、これは、近年第3次産業の就業者数が増加しているためと考えられ、産業構造の変化によってこれらの割合も今後変化していくことが予想されます。
図3
図3 職業性皮膚外傷・熱傷(75例)の職業別症例数
図4
図4 職業性皮膚外傷・熱傷の産業3部門別割合
前回1)と今回の調査結果を対比して示す。

<参考文献>
1)荒尾龍喜,他:日本災害医学会会誌 46:343-352,1998
2)戸倉新樹:皮膚病診療 28:38-42,2006

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職業性接触皮膚炎・湿疹群

職業性接触皮膚炎・湿疹群の男女比・年齢層別症例数

職業性接触皮膚炎・湿疹群は、女性に多い
 職業性接触皮膚炎・湿疹群は、職業性皮膚障害390例中259例と過半数を占め、最も頻度の高い皮膚障害です。
 男女比をみると、男性が112例(43.2%)、女性が147例(56.8%)と女性に多いことが特徴で(図1)、前回の調査1)でも同様の結果でした。職業性皮膚障害の女性194例中、接触皮膚炎・湿疹群は75.8%を占めます。これについては、一般に女性の方が家事などにより、業務以外でも皮膚炎を発症しやすい状況が多いことが理由の1つとして考えられます。また、後で述べますが、理・美容師や看護師に代表されるように、これらの皮膚炎を発症しやすい職業に、女性の割合が高いことも関係しています。
 259例の平均年齢は38.6±15.4歳で、年齢層別では20歳代〜30歳代前半の若年層に多く発症しています(図2)。
図1 職業性接触皮膚炎・湿疹群(259例)の男女比
図1
図2
図2 職業性接触皮膚炎・湿疹群(259例)の男女別・年齢層別症例数

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職業性接触皮膚炎・湿疹群の発症部位

職業性接触皮膚炎・湿疹群の多くは、手の湿疹
 職業性接触皮膚炎・湿疹群259例の発症部位をみると、当然のことながら最も多いのは手であり、67.4%を占めます。以下、職業性皮膚外傷・熱傷と同じく、上肢、顔がこれに次ぎます。このように露出部に多いことから、業務上接触する種々の物質に起因して発症しているケースが多いことがうかがえます。
図3
図3 職業性接触皮膚炎・湿疹群(259例)の発症部位
(注)複数の部位に発症している症例があるため、発症部位の総数は313件である。

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職業性接触皮膚炎・湿疹群の病型

 職業性接触皮膚炎・湿疹群259例の病型(診断名)をみると、業務上接触した物質に起因する接触皮膚炎・湿疹が250例(96.5%)と大部分を占めます(表1)。
 他に、アトピー性皮膚炎(の増悪)や光線過敏性皮膚炎などの病型も報告されています。また、接触皮膚炎の特殊例と言える接触蕁麻疹や全身性接触皮膚炎の症例や、起因物質との接触を繰り返した結果、痒疹という通常の湿疹とは異なるタイプの皮疹を呈した症例などが報告されています。日光皮膚炎(ひやけ)は、一般には接触皮膚炎・湿疹群には分類されませんが、日光・光線が関与する疾患として、光線過敏性皮膚炎と共にここに分類しています。
表1 職業性接触皮膚炎・湿疹群(259例)の病型
表1

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職業性接触皮膚炎・湿疹群の職業別症例数

職業性接触皮膚炎・湿疹群を発症しやすいのは、理・美容師、看護師、調理・炊事・皿洗い業など
 職業性接触皮膚炎・湿疹群は、あらゆる職業に起こり得ますが、その発生頻度は職業によってかなりの差がみられます。今回の調査で、職業性接触皮膚炎・湿疹群259例の職業別症例数をみると、理・美容師が28例(10.8%)と最も多く、次いで看護師が25例(9.7%)、調理・炊事・皿洗い業が24例(9.3%)という結果でした(図4)。
 前回の調査結果1)と比較すると、上位3つの職業は同じです(図5)。前回症例数の多かった機械工業の割合は今回減少し、事務職などの割合が若干増えています。
図4
図4 職業性接触皮膚炎・湿疹群(259例)の職業別症例数
図5
図5 職業性接触皮膚炎・湿疹群の職業別割合 前回1)と今回の調査結果を対比して示す。

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職業性接触皮膚炎・湿疹群の原因

職業性接触皮膚炎・湿疹群の原因は、職業別に様々であるが、洗剤類、手袋などの防具の頻度が高い
 職業性接触皮膚炎・湿疹群の原因についてみてみると、洗剤・石鹸・シャンプーなどの洗浄剤と、手袋・帽子・マスク・ヘルメットといった防具類が多く挙げられました(図6)。水仕事や頻回の手洗いも、種々の職業において皮膚炎の原因になります。
 その他、製造業や建設業において有機溶剤・油類、医療従事者において消毒剤、理・美容師において染毛剤・パーマ液など、職業別に様々な原因物質が挙げられています。一部の症例では、パッチテストで原因物質の確認がおこなわれています。
 今回の調査結果から、職業性接触皮膚炎・湿疹群が多い職業における代表的な原因を表2にまとめました。
図6
図6 職業性接触皮膚炎・湿疹群の原因 記載が明らかな202例について(複数回答)
表2 職業性接触皮膚炎・湿疹群の職業別の主な原因 表2

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理・美容師の職業性皮膚障害

理・美容師の職業性皮膚障害は、手の接触皮膚炎以外に、皮膚感染症、毛巣洞、立ち仕事に起因するうっ滞性皮膚炎や鶏眼などがある
 理・美容師は、職業性接触皮膚炎を発症しやすい職業であり、今回の調査でも理・美容師の症例が多く報告されています。接触皮膚炎以外の症例も含めて理・美容師の職業性皮膚障害をみてみると、今回報告された理・美容師の症例は29例で、業種別では、理容師5例、美容師24例と、皮膚科を受診する症例は美容師の方が4倍以上多くなっています。種別では、接触皮膚炎・湿疹群をはじめとして、表3に示す症例が報告されました。
 理・美容師の職業性接触皮膚炎に関しては、研究課題2でパッチテストによる原因物質の確認など詳細に検討しているため、ここでは省きます。職業性の接触蕁麻疹は、職業性接触皮膚炎の1型とも言えますが、理・美容師の場合、染毛剤やゴム手袋で生じる可能性があります。消費者において染毛剤による接触蕁麻疹、医療従事者などにおいてラテックスアレルギーが報告されているため、これらのものに接触する頻度が多い理・美容師でも今後注意が必要と考えられます。化膿性爪囲炎や蜂窩織炎といった皮膚感染症は、いずれも湿疹や毛髪による小外傷から二次的に生じた症例です。毛巣洞は、毛髪の刺入により、ろう孔やしこりが生じる疾患で、職業性では理・美容師やトリマーで指間に生じた例が報告されています。発生頻度は少ないものの、理・美容師の職業性皮膚障害の1つとして理解しておくことが重要です。下肢に生じたうっ滞性皮膚炎や、足底の鶏眼(ウオノメ)も報告されており、これらは、理・美容師に多い長時間の立ち仕事が誘因・悪化因子となって発症しています。
表3 理・美容師の職業性皮膚障害(29例)の種別
表3

<参考文献>
1)荒尾龍喜,他:日本災害医学会会誌 46:343-352,1998

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その他の職業性皮膚疾患

皮膚真菌症

 職業性皮膚真菌症は25例で、災害的皮膚障害を除く職業性皮膚疾患の中では、接触皮膚炎・湿疹群に次いで多い結果でした。職業性皮膚真菌症は、中高年の男性に多い傾向があります(表1)。病型別では、白癬が21例、皮膚カンジダ症が4例でした。前回の調査1)で報告された、癜風とスポロトリコーシスの症例は今回報告されませんでした。
 白癬は、安全靴や長靴の長時間使用による足白癬が大部分を占め、職業では農業や建設業に多い傾向があります(表2)。一方、皮膚カンジダ症は、いずれも手に発症しており、調理業などで水を頻繁に使うことが誘因となっています(表3)。
表1 職業性の皮膚真菌症(25例)のまとめ
表1
表2 職業性の白癬(21例)のまとめ
表2
表3 職業性の皮膚カンジダ症(4例)のまとめ
表3

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細菌・ウイルス感染症

 職業性の細菌感染症は、男性10例、女性3例が報告されました。このうち、ひょう疽・化膿性爪囲炎、蜂窩織炎は、いずれも小外傷、職業性手湿疹、職業性の足白癬から二次的に生じた症例です(表4)。臀部に発症した膿皮症は、トラック運転手において長時間の座位に起因した症例です。
 職業性のウイルス感染症3例のうち、2例は全身性のウイルス感染症で、保母、看護師において患児・患者から感染した症例です(表5)。皮膚のウイルス感染症では、職業性の小外傷・手荒れに併発したウイルス性疣贅の症例がありました。また、今回は報告されませんでしたが、前回の調査1)で、歯科従事者の手指に生じたヘルペス性ひょう疽が多く報告されており、職業性皮膚疾患として重要と考えられます。
表4 職業性の細菌感染症(13例)のまとめ
表4
表5 職業性のウイルス感染症(3例)
表5

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動物性皮膚疾患

 職業性の動物性皮膚疾患は10例報告され、そのほとんどは、屋外の業務で発生した蜂刺症、毒蛾皮膚炎、虫刺症でした(表6)。病院や老人保健施設などでの多数発生が問題となる疥癬は、介護士の例が1例報告されました。
表6 職業性の動物性皮膚疾患(10例)のまとめ
表6

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皮膚附属器障害

 職業性の皮膚附属器障害は、前回の調査1)では、職業性皮膚疾患の中で接触皮膚炎・湿疹群、皮膚真菌症に次いで多く報告されていますが、今回は6例でした。種別でみると、毛包障害が3例、爪障害が3例です(表7)。
 毛包障害のうち、円形脱毛症2例は、いずれも業務上のストレスが誘因となって生じたと報告されています。円形脱毛症の発症機序自体に未だ不明な点が多いことから、業務起因性を証明することは難しいと考えられますが、前回の調査でも、円形脱毛症において業務上のストレスが発症に関与したと考えられる例が多く、精神的ストレスは一因となる可能性があります。
 ざ瘡(アクネ)は、今回、高温多湿環境が誘因で生じた尋常性ざ瘡1例のみでした。化学物質による職業性ざ瘡としては、油(機械油、食用油)による油性ざ瘡、有機ハロゲン化合物(ダイオキシンなど)によるクロールざ瘡、タールによるタールざ瘡の3種類があります2)。前回の調査では、油性ざ瘡が報告されていますが、クロールざ瘡、タールざ瘡の報告はなく、職業性ざ瘡としての頻度は現在少ないと考えられますが、産業医学的に重要な疾患です。
 爪障害は、業務上外力が加わることにより生じた爪甲鈎彎症、職業性の手湿疹から生じた爪甲異栄養、業務で使用する靴が合わないことで生じた陥入爪が報告されています。職業性の爪障害は、爪の変形を主とするものが多いと考えられます。爪周囲の手湿疹から二次的に爪の変形をきたした状態がよくみられるように、症状が軽度の場合を含むと、職業性の爪変形は実際かなり多いことが推測されます。
表7 職業性の皮膚附属器障害(6例)のまとめ
表7

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皮膚悪性腫瘍

 職業性の皮膚悪性腫瘍としては、今回、浸潤癌の報告はなく、表皮内癌(前癌病変)である日光角化症が2例報告されました(表8)。2例とも、長年の紫外線曝露に起因して顔面に発症した高齢者の症例です。
 職業性の皮膚悪性腫瘍は、発生頻度は高くはありませんが、進行すると生命に関わる疾患であり、産業医学的にも重要と考えられます。職業性には、タール・ピッチ、ヒ素、紫外線、放射線、熱傷瘢痕から生じるものが挙げられます2)。前回の調査1)では、タールによる有棘細胞癌、紫外線による基底細胞癌、高齢医師に発症した放射線によるボーエン病・放射線角化症が報告されています。
表8 職業性の皮膚悪性腫瘍
表8

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その他の職業性皮膚疾患

 その他、表9にお示しする職業性皮膚疾患が報告されました。
 外傷性表皮嚢腫・角化腫に属するものとしては、胼胝・鶏眼(タコ・ウオノメ)が5例あり、いずれも業務上足の長時間の圧迫が加わる部位に発症しています。
 皮膚血行障害としては、2例報告がありました。うち1例は、喫煙に加え、職業性には振動工具も関与したと考えられるバージャー病です。なお、振動工具が原因となる職業病としては、レイノー症候群が有名です。もう1例は、長時間の立ち仕事が誘因となったうっ滞性皮膚炎で、静脈瘤のある下肢に発症する疾患です。皮膚血行障害は、血行障害そのものに対する治療のため皮膚科以外を受診しているケースも多く、実際には、職業性皮膚疾患としての発生頻度はもっと高い可能性があります。
 蕁麻疹・紅斑類に属するものとしては、業務上のストレスが誘因と考えられる蕁麻疹が1例報告されています。蕁麻疹は、日常よくみる疾患ですが、原因・誘因が不明であることが多く、業務との因果関係を証明することが難しいため、報告が少ない結果となっています。ストレスは蕁麻疹の悪化因子となり得るため、実際には、職業性であることが考慮されるケースは少なくないと考えられます。
 前回の調査1)で少数報告のあった色素異常症の症例は今回ありませんでした。職業性に生じる色素異常症には、ハイドロキノン(ゴム、写真工業)、アルキルフェノール、フェニルフェノールなどが原因で生じる色素脱失と、タール・ピッチ、ヒ素で生じる色素沈着がありますが2)、その発症頻度は少なく、日常よくみられる色素異常としては、色素沈着型接触皮膚炎や、炎症後の色素沈着などの頻度がより高いと考えられます。

表9 その他の職業性皮膚疾患
表9

<参考文献>
1)荒尾龍喜,他:日本災害医学会会誌 46:343-352,1998
2)戸倉新樹:皮膚病診療 28:38-42,2006

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労災保険の申請状況

 災害的職業性皮膚障害(外傷・熱傷)においては、記載が明らかな57例中39例(68.4%)で労災保険が申請されていました(図1)。職業性接触皮膚炎・湿疹群は、記載が明らかな232例中わずか5例(2.2%)に過ぎませんでした(図2)。その他の職業性皮膚疾患では、郵便配達業における蜂刺症2例のみでした。
 職業性接触皮膚炎・湿疹群は、最も多くの症例があるにも関わらず、労災保険が申請されるのは極めて少数に止まります。急性刺激性接触皮膚炎の極型とも言える化学熱傷では、6例中5例(83.3%)と高い割合で申請されていることから、職業性接触皮膚炎・湿疹群の多くは、症状がそれほど強くない、原因物質の特定が難しいなどの理由で、労災保険が申請されていないという状況が考えられます。また、原因物質が特定できたとしても、アレルギー性接触皮膚炎においては、その原因物質は一般的には有害因子とされていないものが多いため、労災認定されるためには個別に有害因子であることを示さなければならないという問題があります1)。研究課題2で述べましたが、理・美容師の皮膚炎に代表されるように、職業性アレルギー性接触皮膚炎は、何らかの対策が取られない限り難治に経過し、ひどい場合には職場の配置転換や転職を余儀なくされるケースもあります。職業病として無視できない問題であり、労災として対応し、再発防止策を立てていくことが望まれます。

表9
図1 災害的職業性皮膚障害(外傷・熱傷)における労災保険の申請状況
図2
図2 職業性接触皮膚炎・湿疹群における労災保険の申請状況

<参考文献>
1)森 保:皮膚科診療プラクティス 20,文光堂,283-285,2007

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