物理的因子
普及TOPへ戻る
研究の概要
職業性皮膚疾患とは
研究課題〔1〕
研究課題〔2〕
研究課題〔3〕
研究報告書等一覧
研究課題[2]
―職業性皮膚障害に対する職場作業環境管理の進め方に関するガイドライン作成―
―理・美容業界をフィールドとして―

理・美容師を対象としたアンケート調査の結果

 平成17年8〜11月と平成19年10月〜平成20年1月に、宮城県内の理・美容師を対象にアンケート調査を実施し、多くの理・美容師の方にご協力いただくことができました。この調査により、理・美容師の職業性接触皮膚炎の実態をいろいろ検証しましたので、その結果の一部をお示しします。

皮膚炎発生の割合

現在皮膚炎を認める割合は16.2%、過去に皮膚炎を認めた割合は37.9%
理容師と美容師を比較すると、美容師の方に皮膚炎が多い


 理・美容師全体で、現在皮膚炎を認める割合は16.2%、過去に認めた割合は37.9%でした。平松ら1)は、理・美容師155例のアンケート調査で、調査時皮膚炎を認めた割合は26.5%、過去に皮膚炎があった人を含めると61.3%と過半数を超えたと報告しています。今回の結果は、平松らの報告よりも少ない割合ですが、理容師と美容師を分けて検討してみると、美容師の方が有意に皮膚炎の割合が高く、皮膚炎の経験がある美容師は過半数を超えています(図1)。
図1
図1 皮膚炎発生の割合(n=1.733)

↑ページTOPへ戻る

皮膚炎の原因・悪化因子

皮膚炎を起こしやすい業務は、洗髪・パーマ・ヘアカラー
シャンプー・パーマ液・染毛剤といった製品と、お湯(水)を使うことが、皮膚炎の原因・悪化因子
 皮膚炎を起こしやすい業務は、主に洗髪・パーマ・ヘアカラーです。現在皮膚炎のある理・美容師の方が、皮膚炎のない理・美容師に比べてこれらの業務が多いという調査結果が得られました(図2)。皮膚炎の経験のある理・美容師から、その原因と考えられる製品や悪化因子について複数回答してもらったところ、製品別ではシャンプー、パーマ液、染毛剤の順に多く、物理的要因では、お湯という回答が過半数を占めました(図3)。その他、ドライヤーの熱風や毛髪の刺激などが挙げられました。
 理容師に比べて美容師の皮膚炎の割合が高いのは、美容業でパーマやヘアカラーをおこなう回数が多いためであると考えられます。図3で示していますが、美容師ではパーマ液、染毛剤を挙げる割合が理容師に比べて高くなっています。
図2
図2 皮膚炎の有無と業務内容(n=610) 1日の平均施工回数を示す。
図3
図3 現在・過去を問わず皮膚炎ありとの回答があった方から複数回答

↑ページTOPへ戻る

皮膚炎の発症時期

就業してから1年未満で皮膚炎を発症することが多い
経験年数が少ないほど、皮膚炎を有する割合が高い
 現在・過去を問わず皮膚炎ありとの回答について、就業から皮膚炎発症までの期間をみてみると、1年未満が67.4%と過半数を占め、特に3か月未満での発症が最多です(図4)。
 現在の皮膚炎の有無を回答者の経験年数別にみると、経験年数が1〜10年では、現在皮膚炎を認める割合が過半数を超え、特に美容師では8割近くに達します(図5)。以後、経験年数が増えるに従って少なくなりますが、この理由は従来言われているように、若年の理・美容師は洗髪業務が多いためと考えられます。また、皮膚炎を理由に離職・転職する例があることも関連しているかもしれません。
図4
図4 就業から皮膚炎発症までの期間(n=568)現在・過去を問わず皮膚炎ありとの回答から
図5
図5 経験年数別にみた現在皮膚炎を有する割合(n=925)

↑ページTOPへ戻る

皮膚炎の業務に与える影響

皮膚炎経験者の約半数が、皮膚炎によって業務に支障をきたしたことがある
 現在・過去を問わず皮膚炎ありとの回答について、皮膚炎の業務に与える影響をみてみると、「業務に支障あり」との回答は半数近くに及び、手を使う理・美容師にとって業務への影響は大きいことが分かります(図6)。特に熟練の理・美容師にとって、皮膚炎のために技術を十分に生かしきれていないとしたら残念なことであり、皮膚炎による離職者をこれ以上増やさないためにも、この業界における皮膚炎対策の早期の確立が望まれます。
図6
図6 皮膚炎の業務に与える影響 現在・過去を問わず皮膚炎ありとの回答から

↑ページTOPへ戻る

皮膚炎が悪化する時期

皮膚炎は、空気が乾燥する冬季に悪化しやすい
 多くの理・美容師は、空気が乾燥する冬季に皮膚炎が悪化しています。環境の変化も皮膚炎の状況に大きな影響を与えていると言えます。乾燥により皮膚のバリア機能が低下するため、空気が乾燥する時期には、職場の湿度への配慮や、スキンケアをより十分におこなうことが求められます。
 また、前述の設問の皮膚炎の業務に与える影響に応じて、皮膚炎の程度を重度・中等度・軽度の3グループに分けてみてみると、皮膚炎が軽度であるほど冬季の悪化を自覚している傾向がみられます(図7)。季節的な変化はないという回答は、皮膚炎が重度であるほど多くなりますが、これは、重度のグループには種々の製品・薬液によるアレルギー性接触皮膚炎が多いため、季節的な変化は出にくいということが考えられます。
図7
図7 皮膚炎が悪化する時期(n=667)
現在・過去を問わず皮膚炎ありとの回答から、皮膚炎の程度を3群に分けて検討した。

↑ページTOPへ戻る

皮膚炎の有無とアレルギー性疾患の合併・既往

アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患があると、皮膚炎を発症しやすい
 アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー性疾患の合併があると、皮膚炎に罹患しやすい傾向があることが報告されています1, 2, 3)。特に、アトピー性皮膚炎ではもともと皮膚のバリア機能が低下しているため、皮膚炎発症までの期間が短く、重症化しやすいという特徴があります。今回の調査でも、やはり皮膚炎があるとアレルギー性疾患を有する割合が有意に高いという結果が得られました(図8)。特に、現在皮膚炎があるグループでは、アレルギー性疾患を有する割合は52.9%と過半数を超えています。蕁麻疹は、アレルギー性だけでなく非アレルギー性の機序で起こることも多いですが、今回併せて検討したところ、現在皮膚炎があるグループで、蕁麻疹を有する割合が高いという結果が得られています。
図8
図8 アレルギー性疾患および蕁麻疹の有無(n=585)
アレルギー性疾患、蕁麻疹の合併・既往がある割合を示した。

↑ページTOPへ戻る

皮膚炎の予防手段(グローブの着用)

ヘアカラー時はグローブが着用されていることが多いが、洗髪時とパーマ時は業務に支障をきたすため着用率が低い
 薬液などの種々の刺激を回避するための手段としては、グローブの着用がありますが、その着用率は低いことが言われています1)。今回の調査でも、ヘアカラー時は過半数が着用していますが、洗髪時とパーマ時は常時着用するグループと時々着用するグループを合わせても1割程度でした(図9)。皮膚炎の有無との関係をみてみると、洗髪時、パーマ時、ヘアカラー時のいずれにおいても、皮膚炎がないグループ、過去に皮膚炎があったグループ、現在皮膚炎があるグループの順に着用率が高くなっていますが、これは、皮膚炎があるためにグローブを着用せざるを得なくなったという状況が考えられます。
 グローブを着用できない理由は、洗髪時・パーマ時作業しづらいからという意見が大部分を占め、特に洗髪時は髪がからまり引っ張ってしまう、お湯の温度加減が分かりづらくなるといったことからグローブは避けられる傾向にあります。また、お客さんから失礼に思われるといった意見もあります。理・美容師の方々に受け入れられる皮膚炎の予防手段を検討することが今後の課題です。
図9
図8 アレルギー性疾患および蕁麻疹の有無(n=585)
アレルギー性疾患、蕁麻疹の合併・既往がある割合を示した。

↑ページTOPへ戻る

皮膚炎の経過

皮膚炎の経験がある理・美容師の7割は、以前に比べて皮膚炎が軽快している
皮膚が慣れて皮膚炎がよくなるということは、通常ほとんど起こらない
 皮膚炎の経験がある理・美容師の7割は、何らかの理由あるいは対策を講じることによって皮膚炎が以前に比べて軽快していることが分かりました(図10)。その理由については、昔に比べ製品の質が改善されたとの回答が最も多く約半数を占め、次いで皮膚炎を起こしやすい業務が以前に比べ減少したためとの回答が続きました(図11)。スキンケアや薬の使用で軽快しているのは3割で、やはり原因そのものがなくならないと皮膚炎は治りにくいと言えます。グローブ着用で軽快したとの回答は、皮膚炎が重度であるほどその割合が高いものの2割程度にとどまり、グローブ着用率の低さとも関係していると考えられます。
 アレルギー性接触皮膚炎であっても、時に「慣れ」を生じて皮膚炎が軽快するというケースが漆職人などでみられますが4)、調査結果も示すように、一般的にはこのようなことはほとんどなく、やはり何らかの対策を講じる必要があります。
図10
図10 皮膚炎の予後 現在・過去を問わず皮膚炎ありとの回答から
図11
図11 皮膚炎が軽快した理由(n=433) 皮膚炎の程度を3群に分けて検討した。

<参考文献>
1)平松正浩,他:皮膚病診療 22:573-578,2000
2)川島 真,他:日本災害医学会会誌 41:99-103,1993
3)松永佳世子,他:皮膚 31:167-175,1989
4)河合敬一:Visual Dermatology 3:44-45,2004

↑ページTOPへ戻る


COPYRIGHT