職業性外傷
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手のリハビリテーション

ハンドセラピーとは


 手はきわめて繊細な知覚を有しており、単純な運動から精密で複雑な運動まで自由自在に行う機能を持っています。その機能を発揮するために、手指には狭い範囲に腱、神経、血管、骨・関節などが密に存在しています。
 したがって職業性外傷においてはそれらの組織が複合損傷を受ける場合が多く、高度で専門的な手の外科治療が必要であると同時に、損傷の状態・治療方法・手術方法に合わせたきめ細かなリハビリテーション(作業療法:ハンドセラピー)が必要となります。
 一見、軽度の外傷に見えても、治療にあたる手の外科医との連携がうまくいかなければ予想以上に重度の障害が残される場合もあり得ます。手の外科医と緊密に連携を取り合って、早期にリハビリテーションを開始することにより、浮腫の軽減や固定による二次的合併症(拘縮・筋萎縮・骨萎縮)の予防が可能となり、出来るだけ短い治療期間で機能を回復、もしくは再獲得させ、職業復帰させることが出来ます。
 セラピストの立場としては患者さんとの接触時間が多いので、日ごろの訓練場面においては主治医の治療意図を十分に患者さんに説明し理解させることが手のリハビリテーションの効果をあげるために極めて大切です。
 障害や外傷の程度によっては元の機能を獲得できない場合もありますが、可能な限り、生活や仕事に役立つ、いわゆる“使える手”としての機能の再獲得を目指しさまざまなアプローチを行います。

ハンドセラピーの実際


1. 評価

筋力:患肢の筋力を徒手的に5段階に評価します。

数的スコア 質的スコア その意味
Normal(N) 検査者が被検者の肢位持続力にほとんど抵抗できない
Good(G) 段階5の抵抗に対して、被検者が抗しきれない
Fair(F) 重力の抵抗だけに対して、運動範囲内を完全に動かせる→客観的基準
Poor(P) 重力を取り去れば、運動範囲内を完全に動かせる
Trace(T) テスト筋の収縮が目で見て取れるか、または触知できる
Zero
(活動なし)
視察・触知によっても、筋の収縮が確認できない

関節可動域:角度計を用いて関節の可動範囲を計測します。

関節可動域

知覚検査:神経損傷などで低下もしくは失われた知覚の損傷程度や、神経修復または再建後の知覚回復の程度を専用の計測器で定量的に評価します。

1) Semmes Weinstein test: 細いプラスチック製のフィラメントで手指を圧迫して認識できる最小の線維を決定することにより、どこまで小さな刺激を感じることができるかという知覚の閾値を調べる検査です。
2) 2 PD (2 Point Discrimination) Test: 1 mm単位で一定の間隔をあけて設置された2本の金属針(先端は鈍)で皮膚を刺激した場合、どこまで細かい間隔までを2点として認識できるかを調べる検査で知覚の密度計測といえます。


(Semmes Weinstein testによる知覚評価の実際と検査結果。青、紫、赤の順に知覚が鈍くなっています。)

2. 各種作業療法

巧緻動作


ボルトボードを用いて手指の細かな動きの訓練をしています。

装具・スプリント療法


指の拘縮(関節が曲がったり、閉じたりしたままの状態)を解除するための装具です。ゴムやバネの牽引力によって徐々に関節の拘縮を解除します。

作業療法の実際


1. 症例提示

左前腕切断、受傷時年齢55歳、男性


症例:受傷時年齢55歳男性、左前腕切断

 作業中、プレス機に左手をはさんで受傷。皮膚トラブルや断端痛のため、リハビリテーションの開始が遅れた。能動フック仮義手を装着し作業療法室で職業前訓練を実施した後、外来通院訓練、職場訪問を行い復帰プログラムの調整を職場責任者と行った。断端の十分な成熟を待って本義手を製作し、プレス工場に元職復帰し60歳の定年まで勤め終えた。

2. 当院における早期自動屈曲訓練プログラム

 手指屈筋腱修復後のプログラムは、1) 術後3週間固定法、2) 早期自動伸展他動屈曲法(クライナート法、クライナート変法)、3) 早期自動屈曲法などの様々なプロトコールがありますが、当院では1995年以降、訓練方法を理解でき、軟部組織の損傷が重度でなく一時的に腱縫合が可能であった症例には屈筋腱の修復に強固な縫合法を用いて、手術直後から屈曲・伸展の自動運動を行わせる方法をとっています。以下に実際のプロトコールを述べますがやや専門的な内容になります。

早期自動屈曲法の実際
 術後は手背側のギプスシーネで肢位を固定し、ゴムバンドによる手指屈曲方向への牽引を手掌部のプーリーと組み合わせて行います。

深指屈筋腱(FDP)の損傷例には、術指を含め4本の指を同時に牽引して手掌部にプーリーを設置します。これはFDPは中枢部で同一の筋腹から4本の腱が枝分かれするため4本の腱を同時に運動させないと効果的な腱の滑動が得られないためです。
術後の訓練の工夫として以下に述べる「他動屈曲および保持訓練」を取り入れました。

他動屈曲および保持
1セラピストは術指を他動屈曲させます。2徐々にセラピストは押さえた指から手を離しながら、患者に指が伸展しないでそのままの位置を保持するように軽くゆっくりと力を入れるよう指示します。3そのままの位置を数秒間保持した後、力を抜いてリラックスさせます

術後の訓練プログラム


1日目:
1腫脹がみられるので、痛みや、創の離解がないよう無理のない範囲で行います。2ゴムバンドの牽引を調節します。3前述の「他動屈曲および保持」を3回ほど行います。C自主トレとして、クライナート法に準じた「他動屈曲、自動伸展」を1時間おきに10から15回行います。このときPIP関節が完全に伸展するように確実に自動伸展を行わせることが屈曲拘縮の予防につながります。PIP関節が完全伸展しないうちに背側シーネにあたってしまう場合には基節骨背側にスポンジなどのウェッジを入れます。D屈曲拘縮が出現しやすいので、夜間は弾力包帯を軽く巻き、指伸展位をとらせます。

2日目:
術後1日と同じだが、術後の疼痛が軽減しているため他動屈曲はよりfull rangeに近くなります。

3日目:
訓練室にて午前午後1回ずつの訓練を開始し、1「他動屈曲および保持」に加え訓練場面でのみ「自動屈曲」を数回実施します。2「自動屈曲」では必ずしも 全可動域までいかなくてもよく、3抵抗感のない範囲にとどめます。C自主訓練はクライナート法に準じて同様に継続します。D創の治癒に従い自動伸展しにくくりますが急に伸展しないようにし、徐々に回数を多くしながら自動伸展させます。

14日以降:
抜糸後、1温浴中自動運動を1日2回追加します。2手関節背屈は指を屈曲してごく軽く行います。3PIP関節の屈曲拘縮が出現していれば、ごく軽く単関節の他動伸展を加えます。

術後2週間目の自動屈曲   術後2週間目の自動伸展

3週後:
1自動運動良好であれば4週まで「背側シーネ、ゴムバンド牽引」を続行しますが、屈曲拘縮があり腱の癒着が強ければシーネとゴムバンドをはずして軽いブロッキングエクササイズ、フリクションマッサージ、自動運動訓練を積極的に行います。

4週以降:
1日中は背側シーネをはずし、リストカフによりゴムバンドの牽引を加えます。2自動運動を積極的に行わせますがADLには使用させません。3夜間は背側シーネを継続します。

6週以降:
1軽いADLに手の使用を許可します(車の運転はまだ)。2屈曲拘縮に対してはスプリンティングを開始します。3軽い筋力強化、他動伸展(単関節)を行います。

8週以降:
1車の運転を許可します。さらに筋力強化、他動伸展(多関節)を進めます。10週以降は、重負荷による筋力強化(ハンマーリングなど)をすすめます。

12週ですべての手の使用制限を解除し訓練終了とします。

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