職業性外傷
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四肢切断、骨折等の職業性上肢外傷について
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治療法(最近の技術革新も含めて)

急性期の初期治療

骨折の治療:
 骨折治療の原則は、骨折部をできるだけ元通りのかたちで癒合させ(解剖学的整復)、最大限の機能回復をはかることです。治療法にはギプスなどの外固定で治療する保存的治療と、手術療法とに分けられます。

保存的治療:
 骨折部のずれ(転位)が少なく、不安定性が強くなければ、ギプスなどの固定(外固定)だけで骨癒合を期待できますが、時には長期の骨折部の固定によって周辺の関節が動かなくなったり(拘縮)、骨がもろくなったり(骨萎縮)という合併症が生じます。

手術療法:
 骨折部のずれが大きく解剖学的整復が得られない場合や、骨折部が不安定な場合には手術によって骨折部を展開して、鋼線や金属の板(プレート)などで固定することが必要となります(内固定)。この場合強固な内固定を行ってできるだけ早期にリハビリテーションを開始することが良好な機能回復の鍵となります。感染や麻酔に関連する合併症が生じえますが、最近は保存療法で治療可能な骨折でも早期の職場やスポーツ復帰および周辺関節の拘縮防止のために積極的に手術を選択することもあります。

腱損傷(特に屈筋腱損傷)の治療:
 手部における屈筋健損傷については、損傷組織が腱および指神経だけであれば、早期運動療法によるリハビリテーションを行っています。一方骨折合併例および再接着や血行再建例では、血管吻合部が十分に治癒するまで、術後数週の固定が必要となります。屈筋腱の縫合法およびリハビリは現在も進化を続けており、私たちは新潟大学手の外科グループが蓄積してきたノウハウに最近の知見を取り入れ、常に最良の治療法を提供できるよう心がけております。

神経損傷の治療:
 神経損傷に関しては切創など開放創に伴う断裂などの場合は診断が明らかですが、骨折などに伴う閉鎖性損傷の場合、その損傷程度を的確に判断することは時に困難となります。神経組織に損傷を伴わない一時的な麻痺の場合は自然回復が見込まれますが、断裂した場合は早期に神経を縫合しなければ機能回復は望めません。また、表面上神経の連続性が保たれていても神経の内部(神経束)が重度の損傷を被っている場合もあります。私たちは理学的所見に加え、電気生理学的診断、定量的知覚評価などを組み合わせて神経損傷の程度を診断しています。

 断裂した神経の治療としては、単純な欠損を伴わない損傷の場合には手術用顕微鏡下に神経を縫合します。顕微鏡を用いた拡大視野下での毛髪より細い糸を用いた繊細な手術となります。また、神経幹内には知覚神経(感覚を司る神経)の線維や運動神経(筋肉を動かす神経)の線維が含まれているので、神経縫合の際には神経の回旋などが起こらないように正確に神経を縫合することが重要です。神経損傷部に欠損があって断裂部を直接に縫合できない場合には神経移植手術が行われます。移植神経としては前腕や下腿部の知覚神経がよく利用され、一本のケーブルとして用いられたり、複数を束にして用いられたりします。神経の中枢部が脊髄から引き抜かれていたりしていて、中枢部からの神経回復が期待できない場合は、他の正常な神経の一部を損傷神経の一部に縫合するなど変則的な神経縫合が適用されることもあります。

外傷によって生じた欠損の治療

失った指の再建:
 切断で指を失った場合、いくつかの指の再建法が存在します。

趾移植:
 足の指を手の指に移植します。移植に際しては直径1 mmほどの血管および神経を縫合するマイクロサージャリーの技術が必要です。第二趾(足の人差し指)がよく用いられます。母指を含む全ての指の再建に用いられます。

部分母趾移植:
 主として母指の再建に用いられます。爪を含む母趾の皮膚および骨の一部を神経血管付きで採取して母指欠損部に移植します。マイクロサージャリーによる神経血管縫合が必要です。組織採取後の母趾には爪が残りませんが、母趾の大部分は温存され足の指の数は減りません。再建された母指は爪を含んでいて整容的に良好で、繊細な知覚の獲得が期待できます。

組織欠損の治療:
 外傷によって皮膚や軟部組織が広範囲に失われた場合、たとえば交通事故などで下腿(すね)の皮膚および軟部組織(肉)がそぎ取られた場合、欠損部の再建に最も威力を発揮するのは遊離組織移植です。具体的には背中の筋肉の一つである広背筋とその上の皮膚を血管付きで採取して、欠損部に移動させて血管吻合を行う手術(遊離広背筋皮弁移植)などでは、かなり広範囲の組織欠損でも一回の手術で修復することが可能です。

知覚再建:
 指尖部など鋭敏な知覚を要求される部位の知覚が失われ、単純な神経縫合では回復が期待できない場合、一つの解決法として神経血管付き皮膚移植があります。これは遊離皮弁(遊離組織移植)として用いたり神経血管だけを茎とする有茎皮弁として用いたりされますが、知覚損失がそれほど問題にならない部位から神経、血管付きの皮膚を採取して欠損部に移動し、遊離皮弁の場合は神経血管吻合を行います。たとえば遊離組織移植による再建の一例として、広範囲に知覚が失われた指に対して、 母趾外側の皮膚を神経血管付きで採取して指に移植するhemi-pulp flapという手術法がよく行われます。

運動再建:
 上腕から手部に至る主要な神経としては、筋皮神経、正中神経、尺骨神経、橈骨神経があり、上肢に要求される運動としては手を空間に固定する働きとしての肩、肘および手関節の自由な運動と安定性、手指の屈曲、伸展、内転、外転、母指対立およびそれらの複合運動としての各種つまみ動作があります。神経や腕や手指を動かす動作筋そのものが損傷されることによって種々のタイプの運動障害が発生します。再建に際しては損傷された神経の近位部および動作筋が使用可能であれば神経縫合、神経移植などが治療の第一段階となります。近位部の神経が利用不可能であれば、他の神経と変則的神経縫合を行うか、損傷されてない筋肉や腱を麻痺筋の動きを代償するように付け替えることによって運動を再建(腱移行、筋移行術といいます)することになります。動作筋そのものが使えない場合は筋または腱移行による再建が唯一の選択枝です。またマイクロサージャリーを用いて、神経血管付きの遊離筋肉移植で運動を再建する方法もあります。


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