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両立支援
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MentalTribune

Medical Tribune(平成25年2月21日号)
第60回日本職業・災害医学会における研究発表について紹介されました。

~糖尿病~ 産業医の存在が悪化の抑止力に

両立支援:糖尿病(過去研究の目的及び意義)
勤労者の罹患率の高い疾病の治療と
職業の両立支援(糖尿病)

①企業における糖尿病患者の実態に関する調査研究

(背景)

  1. 現在の日本は、少子高齢化社会になることにより労働力人口は減少しつつあると共に就労者の年齢構成も高齢化している。この様な現代社会において労働人口の低下に繋がる疾病への対策は重要な問題である。
    特に我が国において最近勤労者医療の重要課題の一つは生活習慣病、メタボリックシンドローム対策である。
    これら疾病群において、その根幹に位置する疾病が糖尿病である。糖尿病患者は全世界的にも我が国においても年々増加の一途をたどっている。
  2. このような状況を踏まえて、厚生労働省は2000(平成12)年から‘21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)‘による生活習慣病対策を推進して来ている。その運動の中間発表が2007(平成19)年に発表されたが、糖尿病の有病率は低下しておらず糖尿病患者並びに糖尿病予備軍は2000万人強であることが考えられ、就労年齢においては4人に1人は糖代謝異常者になっていると推測されており、今後は産業界との連携により生活習慣病対策の一層の推進を図ることを提言している。
    2008(平成20)年よりメタボリックシンドロームの予防を主たる目的とした特定健診と特定保健指導が開始されたが若年者や非肥満者が対象になっていないなど糖尿病治療と予防の視点においては満足すべきものとは言えない。
  3. 糖尿病合併症については糖尿病網膜症にて失明にいたる患者は今だに年間約3000人を数え腎症が進行し新たに人工透析が必要になる患者も年間約1万4000人を数えている。糖尿  病合併症の末期状態の悲惨さは昨今のテレビや新聞にて多く報道され現代では以前に比して国民の糖尿病に対する意識は高まっているであろうと推測されるのであるが、2007(平成  19)年度の厚生労働省の‘国民健康栄養調査‘によれば糖尿病の強く疑われる人で治療を受けている人は55.7%に過ぎず、治療経験のない人は39.2%に及んでいる。
  4. 勤労者の就労を難しくしている一因として重篤な糖尿病合併症の併発が挙げられる。その背景には職場の環境に問題が潜むことが少なくなく、①定期的通院加療の至難さ、②良好な血糖コントロール維持の難しさ、③職場環境からのストレスなどが挙げられる。いずれも職場の関係者の糖尿病への理解の欠如が大きい原因と言える。

(目的)
以上のような我が国の糖尿病治療の実状を踏まえて、企業における就労糖尿病患者の現状および問題点を把握することを目指し、母集団が大きく、健康管理の行き届いている大企業における糖尿病患者の実態(予防と管理・治療も含め)を調査した上で、それを基に中小企業の実情をも調査し、次のステップである“糖尿病患者の就労と治療の両立・職場復帰支援ガイドライン”作成の一資料とする。

②就労と治療の両立・職場復帰支援(糖尿病)ガイドラインに関する研究・開発

(目的)
前述のアンケート調査の結果を使用し企業における糖尿病患者の現状を把握することにより明らかになった問題点に対するガイドラインを立案する。

  1. 患者側の目的
    個々の糖尿病患者の就労者が健康者とほぼ同様に就労し潤いある日常生活を可能とする。
  2. 企業側の目的
    健康な就労者が増加することによる企業効率の改善をはかる。また、医療費の削減も目指す。
  3. 社会的な目標
    労働人口の減少対策となる。医療費の削減も目指す。

(意義)
就労と治療の両立・職場復帰支援に対するガイドラインが作成できると。

  1. 糖尿病患者のメリットとしては適切な治療を基礎として合併症の重篤化を未然に防げるし、良好な労働環境のもとに健康を維持でき、休業時間の短縮も可能となり就労も長く継続することができると推測される。
  2. 企業におけるメリットとしては休業時間の短縮、医療費の削減、職場内での事故防止による安全確保、優秀な人材の疾病による喪失が防止でき労働人口の確保にも繋がることが推測される。また産業医と主治医との患者の状況、職場状況の意見交換は患者の就労と治療の両立に十分役立つと共に早期の職場復帰支援に役立つことが推測される。
  3. 社会全体として糖尿病への理解度が深まり糖尿病撲滅への一助となると共に勤労者糖尿病への対策の一指針となりうると推測される

ガイドラインが目標とする患者・主治医・企業等の関係
ガイドラインが目標とする患者・主治医・企業等の関係