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メンタルヘルス

勤労者の抑うつ、疲労の客観的指標に関する研究

おしらせ

H25.05.15
働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳(厚生労働省):おすすめの本に、「治療と仕事の両立支援 メンタルヘルス不調編」小山文彦著が紹介されました。

H25.05.07
治療と仕事の「両立支援」メンタルヘルス不調編
―復職可判断のアセスメント・ツールと活用事例20―が出版されました。

H25.02.27
Medical Tribune(平成25年2月21日号)
第60回日本職業・災害医学会における研究発表について紹介されました。
~メンタルヘルス~ 不眠はうつ病や生活習慣病のリスク

H24.12.14
研究成果を踏まえた研修会のお知らせ
「うつ病等の早期発見と就労支援の取組」

ダウンロードコーナー

脳血流から疲労を測る!

研究の概要

この分野の第一期研究では,うつ病に特徴的な前頭葉の血流低下と回復に伴う変化,疲労感や不眠と関連した脳血流変化を示しました。これらの脳血流変化は身体のホルモン分泌のアンバランスおよび脳内の神経伝達と深く関連しています。
第二期研究で着眼した唾液中のホルモンは,生理作用に鋭敏に反応することから,心理・行動およびスポーツ医学の研究に用いられています。しかし,抑うつ・ストレスおよび疲労など,労働者の状態(臨床像)とcortisol以外の副腎皮質ホルモンとの関係についての確立された知見は乏しいのが現状です。その結果,労働者の抑うつと疲労蓄積等に関して,脳の血流変化と唾液中ホルモン測定を併せた指標を提示することにより,メンタルヘルス不調の予防(早期発見),診断,回復判定の際に客観的な指標になるとの意義を見出しました。

研究の目的

これまでに,うつ病との相関がほぼ確立されている前頭葉の機能低下は,視床下部―下垂体―副腎皮質系(HPA系)と呼ばれるホルモン分泌の亢進と関連することが知られています。その詳細は,ストレス応答を担う脳内のシステムが,過剰なCRF活動が背側縫線核のGABA作動性神経を興奮させた場合に,前頭葉に連絡しているセロトニン神経系を抑制すると考えられます。
また,血中cortisolの増加が海馬の細胞を障害するという知見も過去の研究から得られており,前頭葉や海馬など辺縁系の機能低下はHPA系の活動亢進と密接に関係しています。脳機能の画像と神経系のホルモン内分泌活動を併せた検討は,うつや疲労等の客観的指標の開発には必須と考えられます。

研究方法の概要

今回の研究では,唾液中ホルモンの精密測定を用い,まず,その測定値が健康者に比べ抑うつ,うつ,疲労等に特徴的な日内変動を示すか否か(研究1),また,唾液中のホルモン値と労働者のQOL(quality of life)も含めた状態(臨床像)および脳血流変化がどのように相関しているかについて検討(研究2)しています。

それでは,具体的に,第二期研究の目的,意義,方法等について,第一期研究の概要も含めて以下に図説します。

PDF 勤労者の抑うつ、疲労の客観的指標に関する研究・開発

現在までの知見(2010年12月現在)

1.うつ病に特徴的な唾液中ホルモンの分泌

一例として,図1に示した通り,健康者のホルモンは,ともに朝高く夜に下がる傾向がありますが,うつ病の患者さんでは朝の立ち上がりが低く夜に下がりきっていません。DHEA,DHEA-Sは,うつ病患者の方が(DHEAの18時を除いて)高い傾向があります。うつ病においては F/DHEA-S, E/DHEA-Sが(終日通して)小さいことが特徴的です。(図1)

図1 唾液中F,E,DHEA,DHEA-S濃度とF/DHEA,F/DHEA-S,E/DHEA,E/DHEA-S比の日内変動【うつ病患者と健康者の比較】
gグラフグラフ

2.脳血流SPECTのvbSEE解析によるうつ病群の脳血流変化の客観化

一例として,図1に示した通り,健康者のホルモンは,ともに朝高く夜に下がる傾向がありますが,うつ病の患者さんでは朝の立ち上がりが低く夜に下がりきっていません。DHEA,DHEA-Sは,うつ病患者の方が(DHEAの18時を除いて)高い傾向があります。うつ病においては F/DHEA-S, E/DHEA-Sが(終日通して)小さいことが特徴的です。(図1)

図1 唾液中F,E,DHEA,DHEA-S濃度とF/DHEA,F/DHEA-S,E/DHEA,E/DHEA-S比の日内変動【うつ病患者と健康者の比較】
gグラフグラフ

うつ病群に特徴的な脳血流変化について,画像統計解析ソフトvbSEEを用いて検討したところ,前帯状回において他部位より優位な血流低下が確認されました。

図2-1:vbSEE レベル3により,小葉別に20%以上の領域で血流低下のあった部位を限定して表示。
前帯状回において最も優位に血流低下が起こっていることを示します。

図2-1

図2-2:小葉別に血流低下の起こった部位が各小葉内に占める割合をExtent(%)で示すことができます。
左前帯状回(Anterior Cingulate)において59.60%と最も優位な血流低下が起こっていることが数値からもわかります。

図2-2

3.睡眠障害(IS;Insomnia Score)と うつ,自殺念慮等との相関を確認

これまでに,睡眠障害の評価項目IS(Insomnia Score)の得点が高い人程,前頭葉背側に有意な血流低下が認められています。この生物学的知見に着眼し,労働者108名を対象にISと抑うつ症状との相関について解析しました。その結果,うつ病経過観察中の人のIS値は,抑うつの重症度,自覚的疲労感,将来への悲観,自殺念慮と有意な相関が認められました。健康者においても,ISは抑うつの重症度等と有意に相関していました。

図3-1:睡眠障害(IS)と抑うつ(SIGH-D,SDS)との相関
ISが高い人程,SIGH-D(左)総点,SDS(右)総点はともに高く,不眠が著しい人ほど抑うつ度が高くなっています。

図3-1

以上から,当研究で用いたIS(睡眠状況の問診項目)は,一般健診等の予防医療部門における「うつ病予備軍」の早期発見と自殺予防の両観点から有用な問診項目となる可能性があると考えられます。

論文・著書・学会発表

論文
  • 労働者の「うつ病予備軍」早期発見のために‐睡眠障害と前頭葉機能低下,抑うつ症状との相関‐/小山文彦,久富木由紀子,浦上郁子(日本職業・災害医学会会誌vol.58,2011 in press)
  • メンタルヘルス不調に罹患した労働者に対する治療と職業生活の両立支援-平成22年度厚生労働省委託事業「治療と職業生活の両立等の支援手法の開発のための事業(疾患案件:精神疾患その他ストレス性疾患)」の概要-/小山文彦(産業医学ジャーナルvol.33, No.6:89-96,2010)
  • 労働者の抑うつ,疲労,睡眠障害と脳血流変化‐99mTc-ECD SPECTを用いた検討‐/小山文彦,松浦直行,影山淳一,他(日本職業・災害医学会会誌vol.58,No.2:76-82,2010)
    http://www.jsomt.jp/journal/pdf/058020076.pdf
  • 労働者の抑うつ,疲労感と脳SPECT画像‐労災疾病等13分野医学研究・開発,普及事業から‐/小山文彦(産業ストレス研究 vol.17,No.2:133-137,2010)
  • ‐労働者健康福祉機構が進める 労災疾病等13分野医学研究‐「勤労者のメンタルヘルス」分野の研究・開発,普及事業について/小山文彦(産業精神保健 vol.17,No.4,P290-295 , 2009)
  • 産業医に役立つ最新の研究報告 第3回 うつ病の客観的診断は可能か ‐脳血流SPECTを用いた検討から‐/小山文彦(産業医学ジャーナル vol.32,No.6,P94-101, 2009)
  • 脳血流99mTc-ECD SPECTを用いたうつ病像の客観的評価/小山文彦,北条敬,大月健郎(日本職業・災害医学会誌 56:122-127,2008)
    http://www.jsomt.jp/journal/pdf/056030122.pdf
  • ストレス関連精神疾患の臨床医学的研究-脳血流99mTc-ECD SPECTを用いたうつ病像の客観的評価法の研究開発-/小山文彦(独立行政法人労働者健康福祉機構「勤労者におけるメンタルヘルス不全と職場環境との関連の研究及び予防・治療法の研究・開発,普及事業」研究報告書:27-40,2008)
著書
学会
  • 「うつ病予備軍」早期発見のために-睡眠障害と前頭葉機能低下,抑うつ症状との相関から- /小山文彦,久富木由紀子,浦上郁子(第18回日本産業ストレス学会,2011年1月,神戸)
  • 労働者の「うつ病予備軍」早期発見のために-睡眠障害と前頭葉機能低下,抑うつとの相関- / 小山文彦(第58回日本職業・災害医学会学術大会,2010年11月,舞浜)
  • パネルディスカッション「メンタルヘルス不調に罹患した労働者の治療と職業生活の両立支援」 / 小山文彦(第58回日本職業・災害医学会学術大会,2010年11月,舞浜)
  • シンポジウム「勤労者のメンタルヘルス対策・事業場内外の相補的な連携」 Opening Remarks (座長)/ 小山文彦(第58回日本職業・災害医学会学術大会,2010年11月,舞浜)
  • 労働者の抑うつ,疲労の客観的指標に関する研究開発事業から-
    不眠,抑うつの脳画像所見に着眼した保健指導への提言- / 小山文彦
    (第17回日本産業精神保健学会特別講演,2010年7月,金沢)
  • 精神科一般臨床で必要な神経画像の知識/ 小山文彦(第105回日本精神神経学会精神医学研修コース,2009年8月,神戸)
  • 勤労者の抑うつ,疲労の客観的指標に関する研究開発 / 小山文彦(第57回日本職業・災害医学会学術大会,2009年11月,大阪)
  • 労働者の抑うつ,疲労と脳血流変化 / 小山文彦(第68回全国産業安全衛生大会特別報告講演,2009年10月,さいたま)
  • 労働者の抑うつ,疲労,睡眠障害と脳血流変化 /小山文彦(第16回日本産業精神保健学会,2009年7月,東京)
  • 労働者の抑うつ,疲労と脳血流変化との相関 / 小山文彦(第28回日本社会精神医学会,2009年2月,宇都宮)
  • 労働者のうつ,疲労と脳SPECT画像/小山文彦(第16回日本産業ストレス学会,2008年12月,東京)
  • 労働者のうつ,疲労と脳血流変化との相関-99mTc-ECD SPECTを用いた検討-/小山文彦,北条敬,大月健郎(第56回日本職業・災害医学会学術大会,2008年11月,東京)
  • シンポジウム-今日のメンタルヘルス研究-/小山文彦(第55回日本職業災害医学会,2007年11月,名古屋)
  • シンポジウム・職場のメンタルヘルス対策,メンタルヘルス不全の早期診断について/小山文彦(第54回日本職業災害医学会学術大会,2006年11月,横浜)
  • 脳血流SPECTを用いたうつ病像の客観的評価法の研究開発について(会長講演)/小山文彦(第15回全国労災病院メンタルヘルス学会,2006年2月,丸亀)
  • シンポジウム・職場のメンタルヘルス対策/ 小山文彦(第53回日本職業災害医学会,2005年11月,大阪)

論文・著書・学会発表

  • -メンタルヘルス-事業場内外の連携を促進させよ(Medical Tribune,2010年12月)
  • 労働者健康福祉機構 研究で睡眠障害と抑うつとの相関性確認(Japan Medicine,2010年7月)
  • 脳血流低下を概観と数値で同定/解析ソフト「vbSEE」活用(Japan Medicine,2010年1月)
  • 表彰研究論文のエッセンス 脳血流99mTc-ECD SPECTを用いたうつ病像の客観的評価/小山文彦(ろうさいフォーラム,2009年12月)
  • うつの時代に想うこと(Medical Tribune,2009年7月)
  • 脳血流にうつ病寛解の兆候/第16回日本産業ストレス学会報告(Medical Tribune,2009年3月)
  • うつ病に見られる脳血流変化(TBS系列TV週刊健康カレンダー カラダのキモチ,2009年3月)
  • うつ病を証明する客観的指標として脳血流を評価する(医学処-医学の総合案内所)
  • うつ病を脳血流変化で評価/疲労感,疲労蓄積度,睡眠と脳血流に相関(Japan Medicine 2008.9.10号1-2面,2008年9月)
  • うつ病・心の悩みの新常識:研究最前線(日経トレンディ10月号)
  • うつや疲労の度合いを読み取れる?!(私の健康life,2008年8月)
  • Yahoo!ニュース国内トピックス:うつ病/うつ病:診断に“物差し”(Yahoo!Japan,2008年8月)
  • うつ病:診断に“物差し”/回復・不調期に血流増減,度合いを脳画像で確認(毎日新聞,2008年8月)
  • 脳の血流から客観的に評価,うつ・疲労の診察(労働新聞 第2693号,2008年8月)
  • 働く人々のうつ・疲労を脳血流から観察可能に(EAPカウンセリングストリート社HPアドヴァイザーのページ,2008年8月)
  • 研究成果:脳血流変化でうつ病の発症評価/労働者健康福祉機構(日刊薬業,2008年7月)
  • うつ・疲労を脳血流から客観的に評価/労働者健康福祉機構(メールマガジン労働情報 No.454,2008年7月)
  • うつ病の客観的評価方法を発表/労働者健康福祉機構(MEDIFAX 5452号,2008年7月)
  • 労働者のうつ,疲労を脳血流から観察可能に(労働者健康福祉機構プレス発表,2008年7月)
  • 勤労者メンタルヘルスセンターの活動(産業保健21 第53号,2008年7月)
  • 働く人々のうつ・疲労を脳の画像から観察可能に,解説版「脳血流99mTc-ECD SPECTを用いたうつ病像の客観的評価法の研究開発」(独立行政法人労働者健康福祉機構ホームページ,2008)
  • 脳血流99mTc-ECD SPECTを用いたうつ病像の客観的評価法の研究開発(労働者健康福祉機構労災疾病等13分野医学研究・開発,普及冊子・サイト:1-10,2008)
  • 労災疾病等13分野医学研究 勤労者のためのメンタルヘルス分野(勤労者医療2007autumn)